8月の雪


「…グスッ…穂高君は、優しいね…」

「何、いきなり…」

「ううん。何となくそう思ったの」


ハハッ、と俺の腕の中で笑う彼女は、まだ震えている。

そんな彼女を支えている俺の腕も、少し震えていて、
力を強くした。


「…なっ何があったのか、聞かない、んだね!」

「いいよ。話したくなったときに話してくれれば…」

「……やっぱり、穂高君に電話してよかった…」


そう言った彼女は、腕の中から出て、満面の笑みを浮かべた。

だけど、俺にはその笑顔が偽物に見えた。

無力さを痛感して、下唇を噛み締めた。



本当は、何があったのかとか、どうして俺を呼んだのか、
を聞きたかった。

でも、そんなことを聞けるほど俺達が過ごした時間は長くない。


昨日今日あったやつに、全てを話すことなんて、
俺だって出来ない。


だから、ただ抱きしめることしか出来なかった。


強くて弱い、華のように笑う笑顔を持つ君を…




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