8月の雪


「痛いよ〜…穂高君」

「…ってか穂高君って、やめない?
なんか小学生みたい…」

「うわっひどーっい!
美紗に言っちゃうよ!?」

「そういうところがガキっぽい。」


俺が言うことに、いちいちむきになるところが“可愛い”
とか思ってしまった。

だから、少しからかってあんなことを言った。


「…馬鹿祐ー!」


「…………」


まさか本当に呼ぶなんて、
思ってなかった。


「祐?どうかした??」


硬直した俺を見て、
彼女は不思議そうな顔をする。


自分でもよく分からない。


何で口が動かないのか、

何で頭が真っ白になっているのか。


たかが名前を呼ばれただけなのに…

こんな風に、なるなんて思っても見なかった。


「…祐!?」

「なっ!?」

「えっ…どうしたの!?」


とっさに伸びてきた手を振り払ってしまった。


「……ごめっ…」

「ううん、ちょっとびっくりしただけ…」


ひどく驚いた顔をしている。

しまった、と思いながら、
この場をどうしたらいいかが分からない。


「…帰る、な…」


まるで逃げるようにして、
俺は病室を出た。
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