8月の雪
「…あっ…ごめん、ね…」
嶋さんと呼ばれた人は、
芙由の顔を見て、真っ青な顔をしながら、逃げ去った。
「芙由ちゃん、あなたは聞き分けのある子よね?
30分だけなら許すわ
…最高の一日にしなさい」
「本当!?ありがとう、婦長さん」
まるで子供がご褒美を与えられたように、芙由ははしゃいでいる。
さっきのはもしかして幻?
そう思うぐらいのとびきりの、笑顔。
でも俺は、まだことの重大さが理解できず、
いろんな疑問を抱いていた。
「…連れて来たかったとこ、ってここ?」
「うん、そうだよ?」
病院から約三分の場所。
森の奥にある、ここらへんに住んでいる人でも知らない、おっきな湖がある場所。
…でも俺は知っている。
誰も知ってる人なんて、いないと思ってた。
【立入禁止】と、書かれた門が、ここに来る途中にはある。
だから、絶対にこんなとこに来る人なんて…!?
そんなことを思いながら、芙由の顔を見ると、
勝ち誇ったように笑っている。