8月の雪
家に帰っても残っている
君の手の温もりと、
幼い笑顔。
いつまで経っても消えない気がして、
怖かったのをよく覚えている。
でも、それとは真逆の
切なさが混じっていた。
自分でもよく分からない感情に、取り付かれていた。
「…たっちゃん?もしかして、食欲ない!?」
「あっいや、別に…」
気付くと、心配そうに顔を覗いている、
美紗の母親・真美《マミ》さんと
妹の美優《ミユ》がいた。
「…もしかして、高校生になってもお誕生日会は嫌だった??」
いつもより豪勢な料理を目の前にして、手を付けない俺を不振に思っている。
「そんなんじゃなくて、何て言うか〜…」
「恋わずらい?」
「そうっ恋わずらい!
…って、馬鹿美紗っちげーよ」
横から茶々を入れてくる美紗のペースに、危うくはまるところだった。
俺は息を飲み込んでから、
大好物のコロッケを、口いっぱいに頬張った。
「たっちゃん、恋をしてるのね!?」
「…真美さん、俺の話聞いてた?」
マイペースな真美さんに、思わずため息が出る。