8月の雪
「…タク兄…お母さんがケーキ食べようって」
「…うん、そうしよっか!?」
台所で手伝いをしていた美優は、
白い箱を俺に見せながら、テーブルに置いた。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫よ」
ケーキを切り分ける俺の後ろでは、携帯の画面を見ている美紗。
背中から伝わってくる、よく分からない感情から逃げるように、
鼻歌を歌った。
「…あら、たっちゃんごめんね?
そんなこと、あたしがやるのに」
慌てて俺から包丁を取り、切り掛けのケーキを切り始める。
仕方なく俺は、ソファーに腰掛ける。
一ブーッブーッ
ズボンのポケットに入っていた携帯は、音を出しながら動いた。
【金井美紗】
《あんたは馬鹿だ》
この至近距離でメールを寄越すから何かと思ったら、
いきなりなんだよっ!
と、口から出そうになった。
でも、直ぐに次のメールを受信した。
《祐は、本当はわかってるよ。
だけど、それを認めたら怖いんでしょ?
また、おばさんみたいにいなくなったら…って、いつもそんな想いを抱えてる弱虫…》
お前に何が分かるんだよ!
知りもしないくせに、勝手なこと言うな。