8月の雪
「おっサンキュー!」
そう言って、無邪気な子供のように、ケーキを一口食べる。
「…美紗?どうかしたか!?」
「えっ!?なん、で…」
「顔、曇ってるから…」
生クリームがついたフォークであたしを指しながら、
紅茶をゴクリ、と飲む。
「別に…何でもないから…」
それだけ言われると、納得したような口ぶりとは逆に、顔は
疑ってます、とでも言うような顔をした。
「……あら、たっちゃん起きたの?」
「あっうん。これ食べたら、すぐ帰るよ…明日、小テストあるから…」
「…?明日はまだ夏休みでしょ?」
「違う違う、夏季補習の希望者だけ。
俺、大学は行きたいから、一応ね…」
納得したように母さんは、
祐の皿にもう一つケーキがのった。
「真美さん…俺の話、聞いてた?」
「うふっ!」
何とも言えない笑みを残して、母さんは洗いものを始めた。
「食べないならあたしが食べるけど?」
「食べるからっ!!」
あたしからフォークを奪うと、急いでケーキをたいらげる。
『ホントは祐が好きなんじゃねぇの?』
不意に、そんな言葉が頭に出てきた。
そう言われたのは、
最後のデートをした日だった。