8月の雪
「…美紗、顔色悪いよ…。帰ろう?」
「…………」
祐が優しく問い掛けても、その表情を崩すことなく、ただ首を横に振るだけ。
「でもっ」
「いいじゃない、ほっとけば〜」
「栞、おまえは黙ってろ!」
「何でよ?
ってか、そんな顔してたらこっちがつまんなくなるから」
栞先輩は、皮肉たっぷりに金井に言う。
金井は黙って俯きながら、栞先輩の話を聞く。
「あんたそうやっていつもウジウジして、男をたぶらかすのがうまいこと」
一プチンッ
何かが切れる音がした。
「栞先輩っ!
少し言い方があるんじゃないですか!?
金井は俺らに心配かけまいとして言っていて、
彼氏がいるのに他の男と付き合ってるあんたとは違うっっ」
言い終わったときには、周りは口を開けて、驚いていた。
一番に驚いているのは、他でもない、
俺だ。
普段は結構温和なタイプで、人に不満とかは滅多に言わない。
なのに、こんな風に誰かのために言葉を言っている自分自身に、驚きを隠せないでいる。