8月の雪




遠くで聞こえるのは、

慌ただしい人の声と
ストレッチャーの音。


近くで聞こえるのは、

勢いよく波打つ心臓の音と、
耳障りなサイレン音。




「…祐、大丈夫か?」

「…悪い。」


律が買ってきた飲み物を受け取ると、
頭の中の真っ白な部分を追い払った。


「…………」


あの時、もし律がいなかったらと思うと、背筋が凍る。


俺は何も出来なかった。


救急車を呼んだのも、
様態を話してくれたのも、
全部律だ。


握った手から伝わるのは、
冷たさと震えだけ。



「…祐…大丈夫か?」

「あ…あ…」


歯切れ悪い言葉。

喉に絡み付いたものが、
剥がれないで残っている。


「…芙由ちゃんにはまだ、聞いてないんだろ?」

「何が?」

「………倒れるような理由…」


気まずそうに俺から目を背けた律は、苦しくて険しい表情を浮かべていた。


「…俺から言えるようなことじゃないから、直接聞いて。」


「……わかった……。」


俺はこの時の律の言葉を理解なんて、してなかった。


でも何故だか、自然と覚悟を決めていたんだ。




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