8月の雪
「…腑に落ちない、って感じな顔してんな」
外灯の光を頼りに律は、
俺の顔を見ながら笑っている。
「…芙由の母親が言ったことが、意味分かんなくて…」
ポツリ、と声を出すと、律は俯いた。
「…俺が芙由ちゃんに初めて逢ったのは、中2の夏」
「……りつ…?」
静かに口を開く律を、呆然と耳を傾ける。
「……芙由ちゃんは、明日に希望なんて持ってなかったんだ。」
一一…はっ!?
あの芙由が?
あんな風に笑う芙由が…
今が幸せと言った芙由が…
「…だからさっ…お前と逢って未来が出来たんだよ…」
クサイ台詞。
いつもならそう茶化すのに、
今は言葉が出てこない。
不謹慎だけど…芙由の中に俺がいるって思えた。
「…まあ、明日は早いから帰ろうぜ?」
「そうだな」
外灯で照らされた砂利道を、静寂を破らないようにして帰った。
.