8月の雪



「それをふまえて、僕の話聞いてほしいんだ。」


ピクリとも動けないあたしを見て、花本君は苦笑している。


「…僕が金井さんを知ったのは、中1の冬…」


一ドクンッ


その言葉を聞いた瞬間、あたしの頭は今度は真っ暗になった。


あの忌ま忌ましい事件が蘇ってくる。




怖くて…恐くて…
もがいても、もがいても、逃げ出せない真っ暗な闇にいたあの頃の記憶。


泣き叫ぶ母親と、
魂が抜けたように言葉も聞くことが出来ない美優。



あたしは何も出来ずに、毎日振ってくる拳を受けていた。






【家庭内暴力】






見えないところばかりに出来る傷は、日に日に増していった。


誰もが知らぬままそれは、
半年間続いていた。






『いつかお前を殺してやる』






最後に聞いた父親の言葉。


恐怖心から、ほとんど毎日のように夢にも出て来た。









それが今、あたしの中に、一気に蘇ってきた。




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