8月の雪
「正直、死ぬのは怖くなかった。早いか遅いかの差…私は少し早いだけ。
だから、覚悟はとっくに出来てたの。
……でもね、毎日泣き腫らした目で来るお母さんを見てたら、恐怖心が出てきたの…」
それは、小さな芙由の体では抱えきれないほどの、恐怖心。
捨てた未来を…見れない夢を…
無言の悲しい気持ちが伝わって、泣かずにはいられなかった。
「でもね、今こうして私がいるのは、あの男の子の言葉があったから…」
「………なんて…何て言ったの?」
初めて開いた口は、少しだけ震えて、言葉がうまく出てこない。
そんな俺を見て、芙由はクスッ、と笑った。
「…“未来がどうとか、あの時はどうとかじゃないよ。今が大切なんだ…今があれば、なんでも出来る。
俺は、今が幸せだと思えれば、生きていけるから…”
」
一トクンッ…トクンッ…
「…祐が言ったんだよ」
芙由は苦笑しながら、俺を見る。
「…………」
今度ははっきりと聞こえる音と一緒に、俺は記憶のそこを呼び覚ましていた。
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