8月の雪
『今が幸せ』
そう言えるようになったのは、真美さんに出逢ってから結構経った後。
自分がどれだけ幸せな環境に、今、いることが実感した時。
「…だから、あの湖に俺を連れてったの?」
うん、と言ってから、下に視線を移し、言葉を続ける。
「意味はないと思ったけど、それでも少しは思い出してくれるかな〜…って」
下を向いたまま芙由は、俺を見ようとはしない。
「ごめん、芙由の期待に応えられなくて……
それでも俺は…俺の言葉で、手術を受ける気になってくれて、嬉しいよ。
だから、今こうして目の前に芙由がいる。
それだけで、俺は幸せだよ…」
そう言った俺の顔を一瞬見ると、また下を向いてしまった。
「………ズッ…」
微かだけど、鼻を啜る音、押し殺そうとする声が聞こえる。
それを聞きながら、俺は拳を強く握った。
「……ズッ…あの、ね…初めて、電話した日…あるでしょ?
あの日言われたの…」
ウン…ウン…、と俺は頷く。
「…私が生きられる時間は、後一年しかない、って…」
芙由の言葉聞いた瞬間、心が凍り付いた。
今生きてるのは、手術が成功したからだろ?
どうして、後一年しかないんだよ!?
俺はパッ、と上げた芙由の顔を真っ直ぐに見た。
.