アメとブタ女(短編)
秘密兵器「アメ」
 銀陽高校、合唱部。

 今日も私たちは音楽室で、夏休み中ながらコンクールに向けてパート練習を行っていた。

「ああもう、ここの『G』の音程難しいよ、ねぇ、アキ?」
隣で歌っていた、ユイカがこそっと私に耳打ちした。

 コンクールの課題曲である、この『岸辺の花』はコンクール史上最も難しい曲らしい。
誰がそんなことを言ったかは忘れたけど。

 でもユイカの言うとおり、『G』のブロックの音程は難しかった。
私たちソプラノパートが主旋律になったりサブになったりと、忙しい。

「でもほら、ここの和音とかハモれたらきっとキレイだよ」
うんざりしたようなユイカに言う。
 ユイカは静かにうなずき、やがてラジカセから『G』の部分のメロディーが流れてくる。

 流れるようなピアノの音に、私たちの歌声が乗る。
 波に漂うボートのように、昼間の月のように、ひっそりと。

 透き通るような高音に、自然と私の目が閉じる。

 今日はきっと、アメがもらえる……!
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