アメとブタ女(短編)

「……うん、今日は調子いいじゃない!」

 アルト、テノール、バスパートと共に歌い、ハーモニーを先生に聴いてもらうと、顧問の西口先生は髪を振り乱して喜んだ。喜びのあまり、西口先生のヘアピンが床に落ちる。

「あら、ごめんなさい。それにしても今日は調子がよすぎるくらいね。じゃ、ご褒美あげよっか!」

 ところどころから歓声があがる。主に男声パートからだ。

 先生は音楽室の戸棚から袋を取り出し、アメを出した。
「アメだー!」
「なんか贅沢な気分……」
歓声がさらに大きくなる。

 皆、アメがもらえることよりも「学校で」アメを食べることが特別な気がして嬉しいのだと思う。

「まあ、希望制だからアメがいらない人はいいよ。欲しい人は一人一個。お菓子のごみが廊下にあると校長がうるさいから、アメのごみはしっかり袋に入れること!」

「はーい」
 皆が返事をする。

「それと、のどに詰まると危ないから、アメをなめ終わるまで音楽室から出ないこと!」

 先生は練習を今日はこれで終わることを付け足して、音楽室を出て行った。
< 3 / 8 >

この作品をシェア

pagetop