アメとブタ女(短編)
翌日の練習。
音がよく聞こえない。自分の出している音が合っているのかもよくわからない。
「ちゃんと歌って! 聞いてるの、アキ?」
パートリーダーとユイカの怒号が飛ぶ。
そんなことよりも、昨日の事があって隣で歌うユイカを見られない。
だからかな、細心の注意を払わないと音があっちこっちへ逃げてしまう。
先生は苦虫を噛み潰したような顔をして、今日は調子が悪いから、元気がつくようにアメをあげると言った。
私の元に、また影が現れる。ヒビヤ。相変わらず顔を見れない。
「はい、アキ。アメだよ」
毎度毎度、私にアメを差し出す。受け取ってヒビヤをちらりと見ると、冷たい、突き刺すような視線があった。
「あ、あり……」
体中の体温が上がる。頭が真っ白になる。お礼って何て言えばいいんだっけ……。
ああ、やっぱり言えない。
「あのさ」
「は、はい」
「アキ、もうユイカと帰らないで。ユイカは俺と帰るから」
予想していた言葉が、私の胸に刺さる。辛い。こんなにも、痛い。
涙が出そうになる。失恋したという現実を、こうも突きつけられると余計に辛い。