十一ミス研推理録2 ~口無し~
 しかし、謎が解けていない。それは凶器だ。十一朗は共犯が準備したと予想したが、その話だと辻褄が合わない。凶器を働き先に持ってくるなど、考えられるのだろうか。
 十一朗はコンソメスープを飲んでから、貫野を見た。
「そういえば、凶器のこと聞いてないな。刃渡り何センチ?」
「高校生がそこまで聞くか? バタフライナイフだ。洋画とかで筋肉質のおっさんが指先動かして牽制しながら、刃物出し入れするのを見せびらかす折り畳み式のあれだ」
 最後の説明は完全にこちらを馬鹿にしている必要のない説明だ。こういった貫野の大人げないところを十一朗は好かない。
「ますます変じゃないか。女性がそんなの持ち歩くものか?」
 十一朗が聞いた瞬間だった。貫野の携帯が鳴った。着メロは何度か聞いているので、すぐにわかった。さすがに会話を聞かれるのは抵抗があるのだろう。席を立って外に出ようと動く。
 ところが、貫野は眼を見開いた。店内に響く声で相手に興奮して聞き返した。
「それは本当か? 間違いないんだろうな」
 言って十一朗に視線を向ける。複数回、応対を繰り返した貫野は外には出ずに、その場で話を終えると席に座った。
 深く腰掛けて瞼に手をあてたまま、「くっそ……」と続かない愚痴を言う。
 どうにも話しかけづらい雰囲気を見て、文目が息を吸いこんで貫野に聞いていた。
「あの先輩。電話の内容ってなんだったんですか?」
 ようやく貫野が仰け反っていた体勢を整えてから、また十一朗を見た。
「認めたくないが、高校生名探偵殿の推理がどんぴしゃだよ。凶器は升田の持ち物だった。しかも鑑識が血液鑑定した結果、刺された順番がわかった。意識不明の男が一番目、二番目が升田だ」
 信じがたい情報だった。自殺未遂した男が先に刺されていたとはどういうことなのか。
 遺書の謎がますます深まる。そして、共犯だと思われる綾花の母と男の関係も――。
「どういうことだよ、それ? ますます意味がわからないじゃないか」
 身を乗り出して訊いた十一朗を、コーヒーを飲んだ貫野が睨みつけた。
「そりゃ、こっちも同じだ。しかも奴を治療した執刀医、今頃になって気になっていることがあるって、入電してきたらしい。男には刺された傷が三か所あった。ひとつは今回のモノと思える刺し傷、残りの二つは古傷らしい。しかも、致命傷に近い傷だ」
 謎が混在する事件は解決間近と思いきや、更に道をはずれていた。
 三人の口無したちが形成した鎖の絡み合い――。
「過去だ……時を遡らないと、この事件の真の解決はない」
 十一朗の中で推理という獣が再び吠えていた。
 推理を怠るな。米粒のように散らされた証拠を探せと。
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