十一ミス研推理録2 ~口無し~
「輸送と聞きましたけど何を運んでいるんですか? 飾られている写真を見ても、社の雰囲気は凄くよさそうだし、詳しく聞きたいんですけど」
ワックスに褒められて社長は気分をよくしたのか、急に笑顔になった。
好きで仕事をやっている人なのだろうなと想像がつく。立て懸けてある写真には、先代社長の名前もあった。一代目、二代目の苗字が同じところを見ると、父が建てた会社を子と継いできたのだろう。
「むかしは引っ越し作業とかもやっていたんだよ。今は企業から任された荷物を運ぶのが主な仕事になったね。会社を設立したのは、私の父だったんだけど、引っ越しで荷物を頼んだ時に大切な骨董品を割られてしまったらしいんだ。乱暴な扱いかたが許せなかったみたいでね。だったら私がという気持ちではじめたらしい」
確かに証明するように賞状が飾られている。仕事への拘りと情熱がなければここまで語ることもできないだろう。
居場所を正して更に十一年前の事件を聞こうとする。すると壁に通関士の資格を証明する証書が飾ってあるのが見えた。名前を見ると壁にかけられた社長の名前と同じだ。
「通関士の資格も持っているんですか」
十一朗の質問に社長は「ああ」と答えた。その顔は真剣な表情に変わっていた。
「仕事を多くするには策略も必要ってことだよ。ただの引っ越し業務だけじゃ成り立たない時もある。不景気の時にはそれがモノをいう。父が建てた会社だし、潰したくはない。私の居場所であり、誇りでもあるのがこの会社だからね」
十一朗は熱く会社のことを語る社長を見ながら親近感を覚えた。会社が居場所。ミス研部を居場所と感じている自分と同じだ。
茶を取って飲んだ社長は時計を見ると、十一朗たちを見た。
「すまないけど、明日は仲間との交流会があるんだ。準備をしたいから、あと数分で終わりにしようか。そのお菓子美味しいだろう。お客さまからいただいたんだ。数に限りがあって、地元の人しか食べられないって話だよ」
ワックスが一口で食べようとしたのをとめた。まるでネズミのように噛んでいる。
「交流会ですか。それにお客さんから高級和菓子も貰えるなんて、本当にいい雰囲気の会社ですね」
十一朗が言うと社長は、はにかんで笑った。
「交流会といっても私の独壇場だよ。最近、テニスにハマってしまってね。メタボ対策と理由をつけて、運動不足の社員を引っ張り出しているんだ。年も考えずにやるから、次の日は筋肉痛が酷いんだ。けど、やめられないね」
「テニスなら、私もやったことがあります。はじめは手首の使いかたがわからなくて、痛めてしまって……」
社長の話題に入りこんだのは裕貴だった。そういえば、中学の時にテニス部にいたっけと思い出す。十一朗は運動が嫌いなのに、男子テニス部に入れと強く言われたのだ。
最終的に十一郎が入ったのは将棋部だった。なんでそれなのかと訊かれた覚えがある。相手が動かす駒を予想して最善の手を出す。推理に役立つ経験になるかもしれないと決めたというのが理由だった。
「君たちが入社してくれるというのなら歓迎するよ。綾花ちゃん、いや八木さんにもよろしく言っといて。私が力になれることなら なんでも協力するよ」
仕事に運動に精力的な社長に見送られて十一朗たちは外に出た。
陽はすっかり落ちて、辺りは暗くなりかけていた。部活動を終了して変える時間を考えると少し遅い時間だ。
十一朗は、また父さんと母さんに何か言われるかなと感じた。
帰宅時間のためか、会社員が歩く姿が多くみられる。車の通りも増えていた。
急に先頭にたって歩きだしたワックスが、振り返って満面の笑みを浮かべてみせた。
「いい社長さんだな。俺、就職活動しても駄目だったら、あの社長さんの世話になろう。客からの美味しい土産も食べられそうだし」
ワックスがミス研部に入部した理由は推理が好きだからではなく、手作り菓子に釣られたからだ。十一朗は志望動機まで同じかよと言いかけたがやめた。
「事務のお姉さんも奇麗だったし……」
「会社の志望動機まで同じかよ」
つい言ってしまった。ワックスはいつも突っこみを待っているのではないかと思う。
そんな気分のいい会話が続いていた時だ。
「社長さん、右利きだったね」
裕貴が思わぬことを口に出した。いや、社長も十一年前の事件の関係者だ。そこまで気にしなければいけないはずだ。
ワックスに褒められて社長は気分をよくしたのか、急に笑顔になった。
好きで仕事をやっている人なのだろうなと想像がつく。立て懸けてある写真には、先代社長の名前もあった。一代目、二代目の苗字が同じところを見ると、父が建てた会社を子と継いできたのだろう。
「むかしは引っ越し作業とかもやっていたんだよ。今は企業から任された荷物を運ぶのが主な仕事になったね。会社を設立したのは、私の父だったんだけど、引っ越しで荷物を頼んだ時に大切な骨董品を割られてしまったらしいんだ。乱暴な扱いかたが許せなかったみたいでね。だったら私がという気持ちではじめたらしい」
確かに証明するように賞状が飾られている。仕事への拘りと情熱がなければここまで語ることもできないだろう。
居場所を正して更に十一年前の事件を聞こうとする。すると壁に通関士の資格を証明する証書が飾ってあるのが見えた。名前を見ると壁にかけられた社長の名前と同じだ。
「通関士の資格も持っているんですか」
十一朗の質問に社長は「ああ」と答えた。その顔は真剣な表情に変わっていた。
「仕事を多くするには策略も必要ってことだよ。ただの引っ越し業務だけじゃ成り立たない時もある。不景気の時にはそれがモノをいう。父が建てた会社だし、潰したくはない。私の居場所であり、誇りでもあるのがこの会社だからね」
十一朗は熱く会社のことを語る社長を見ながら親近感を覚えた。会社が居場所。ミス研部を居場所と感じている自分と同じだ。
茶を取って飲んだ社長は時計を見ると、十一朗たちを見た。
「すまないけど、明日は仲間との交流会があるんだ。準備をしたいから、あと数分で終わりにしようか。そのお菓子美味しいだろう。お客さまからいただいたんだ。数に限りがあって、地元の人しか食べられないって話だよ」
ワックスが一口で食べようとしたのをとめた。まるでネズミのように噛んでいる。
「交流会ですか。それにお客さんから高級和菓子も貰えるなんて、本当にいい雰囲気の会社ですね」
十一朗が言うと社長は、はにかんで笑った。
「交流会といっても私の独壇場だよ。最近、テニスにハマってしまってね。メタボ対策と理由をつけて、運動不足の社員を引っ張り出しているんだ。年も考えずにやるから、次の日は筋肉痛が酷いんだ。けど、やめられないね」
「テニスなら、私もやったことがあります。はじめは手首の使いかたがわからなくて、痛めてしまって……」
社長の話題に入りこんだのは裕貴だった。そういえば、中学の時にテニス部にいたっけと思い出す。十一朗は運動が嫌いなのに、男子テニス部に入れと強く言われたのだ。
最終的に十一郎が入ったのは将棋部だった。なんでそれなのかと訊かれた覚えがある。相手が動かす駒を予想して最善の手を出す。推理に役立つ経験になるかもしれないと決めたというのが理由だった。
「君たちが入社してくれるというのなら歓迎するよ。綾花ちゃん、いや八木さんにもよろしく言っといて。私が力になれることなら なんでも協力するよ」
仕事に運動に精力的な社長に見送られて十一朗たちは外に出た。
陽はすっかり落ちて、辺りは暗くなりかけていた。部活動を終了して変える時間を考えると少し遅い時間だ。
十一朗は、また父さんと母さんに何か言われるかなと感じた。
帰宅時間のためか、会社員が歩く姿が多くみられる。車の通りも増えていた。
急に先頭にたって歩きだしたワックスが、振り返って満面の笑みを浮かべてみせた。
「いい社長さんだな。俺、就職活動しても駄目だったら、あの社長さんの世話になろう。客からの美味しい土産も食べられそうだし」
ワックスがミス研部に入部した理由は推理が好きだからではなく、手作り菓子に釣られたからだ。十一朗は志望動機まで同じかよと言いかけたがやめた。
「事務のお姉さんも奇麗だったし……」
「会社の志望動機まで同じかよ」
つい言ってしまった。ワックスはいつも突っこみを待っているのではないかと思う。
そんな気分のいい会話が続いていた時だ。
「社長さん、右利きだったね」
裕貴が思わぬことを口に出した。いや、社長も十一年前の事件の関係者だ。そこまで気にしなければいけないはずだ。