十一ミス研推理録2 ~口無し~
「テニスをやっているって聞いたから、同じ経験者として気になったの。構えが右だった。だから共犯者としては成立しないね……」
「そう考えると、お茶を飲んでいた手も右だったな。それに俺は和田の考えていることがますますわからなくなってきた」
十一年前の事件の時、和田には病気の子供がいた。その治療代を稼ぐために、残業までしていたのにも関わらず、襲撃事件が起きたと同時に妻と子を置いて逃げている。
被害者の和田と殺された升田。和田が受け取ったという保険金千四百万と、升田が言っていた十年か前の貸しという七百万という数字。
車載カメラも壊されていた。そして、今回の事件。どうしても、どす黒い推理に行き着いてしまう。和田と升田は十一年前の事件の共犯者だったのではないかと――。
そして共犯者であろう八木の母と和田の関係。語らなかった訳が他にあるのではないか。考えれば考えるほど憂鬱になってくる。
前回と違って今回は全員で行き着いた結果だ。十一朗の言葉で裕貴とワックスも悟ったのだろう。視線を下に落としながら歩いていた。
不意に十一朗は振動を感じた。携帯の反応だ。着信名を見ると『イタチ』と出ていた。『バカ息子』という着信名にされた貫野へのお返しだ。
知りたくない真実が次から次へと生まれている。その不安からか携帯を取り出して耳に当てるのを、裕貴とワックスは心配そうに見ていた。
「今どこだ。とんでもないことがわかったぞ! 和田のことだ!」
通話状態にすると、鼓膜が破れそうなくらいの声が響いた。貫野の地声は十二分に凶器になると思う。頭一個分、受話器から離しても聞こえるくらいだ。
「和田のこと? こっちも社長さんからいろいろと聞いたよ。なんでも子供がいたとか」
「そのことだ。よく聞け! 和田には確かに妻子がいた。けれど二人は十一年前に亡くなっている」
十一朗は耳を疑った。亡くなっている? 病気の子供も看病をしていたであろう妻も。
渡された保険金にいい顔をしなかったという和田。既にその時、妻子は亡くなっていたのではないか。
守る者がいなくなった。治療費は必要ない。だから升田から逃げた。
貫野の教えてくれた情報から、推理の引き出しが全て開かれる。十一朗は自分が思い描く推理の中で、口無し和田の姿をようやく捉えた。
「貫野さん。和田はまだ入院しているんだよな。俺に彼の事情聴取をさせてくれないか。口無しの彼の口を割ることを約束するよ。あと俺が今から言うモノをお願いしたいんだ」
今の時間帯だと病院は面会を許していないだろう。それでも相手は自白した自称犯人だ。緊急で彼と話がしたいと言えば、きっと聞いてくれるはず。
同時に面会者がこない静かな空間だからこそ、和田が語る環境も構築されている。
絶好ともいえる時間と場所、証拠が揃った。今しかない。
十一朗は口無し和田の口を割るであろうモノを告げた。
聞いた貫野は「病院だな」と冷静に言って通話を切る。ゼロを示した病院の計器のような電話の余韻音を聞きながら、十一朗は空を見た。
十一年前の事件が起きた夜も、こんな感じの空だったのだろうか。
先程まで、笑っていた月が流れてきた雲に隠れて、淡い光を地上に落としていた。
「そう考えると、お茶を飲んでいた手も右だったな。それに俺は和田の考えていることがますますわからなくなってきた」
十一年前の事件の時、和田には病気の子供がいた。その治療代を稼ぐために、残業までしていたのにも関わらず、襲撃事件が起きたと同時に妻と子を置いて逃げている。
被害者の和田と殺された升田。和田が受け取ったという保険金千四百万と、升田が言っていた十年か前の貸しという七百万という数字。
車載カメラも壊されていた。そして、今回の事件。どうしても、どす黒い推理に行き着いてしまう。和田と升田は十一年前の事件の共犯者だったのではないかと――。
そして共犯者であろう八木の母と和田の関係。語らなかった訳が他にあるのではないか。考えれば考えるほど憂鬱になってくる。
前回と違って今回は全員で行き着いた結果だ。十一朗の言葉で裕貴とワックスも悟ったのだろう。視線を下に落としながら歩いていた。
不意に十一朗は振動を感じた。携帯の反応だ。着信名を見ると『イタチ』と出ていた。『バカ息子』という着信名にされた貫野へのお返しだ。
知りたくない真実が次から次へと生まれている。その不安からか携帯を取り出して耳に当てるのを、裕貴とワックスは心配そうに見ていた。
「今どこだ。とんでもないことがわかったぞ! 和田のことだ!」
通話状態にすると、鼓膜が破れそうなくらいの声が響いた。貫野の地声は十二分に凶器になると思う。頭一個分、受話器から離しても聞こえるくらいだ。
「和田のこと? こっちも社長さんからいろいろと聞いたよ。なんでも子供がいたとか」
「そのことだ。よく聞け! 和田には確かに妻子がいた。けれど二人は十一年前に亡くなっている」
十一朗は耳を疑った。亡くなっている? 病気の子供も看病をしていたであろう妻も。
渡された保険金にいい顔をしなかったという和田。既にその時、妻子は亡くなっていたのではないか。
守る者がいなくなった。治療費は必要ない。だから升田から逃げた。
貫野の教えてくれた情報から、推理の引き出しが全て開かれる。十一朗は自分が思い描く推理の中で、口無し和田の姿をようやく捉えた。
「貫野さん。和田はまだ入院しているんだよな。俺に彼の事情聴取をさせてくれないか。口無しの彼の口を割ることを約束するよ。あと俺が今から言うモノをお願いしたいんだ」
今の時間帯だと病院は面会を許していないだろう。それでも相手は自白した自称犯人だ。緊急で彼と話がしたいと言えば、きっと聞いてくれるはず。
同時に面会者がこない静かな空間だからこそ、和田が語る環境も構築されている。
絶好ともいえる時間と場所、証拠が揃った。今しかない。
十一朗は口無し和田の口を割るであろうモノを告げた。
聞いた貫野は「病院だな」と冷静に言って通話を切る。ゼロを示した病院の計器のような電話の余韻音を聞きながら、十一朗は空を見た。
十一年前の事件が起きた夜も、こんな感じの空だったのだろうか。
先程まで、笑っていた月が流れてきた雲に隠れて、淡い光を地上に落としていた。