思春期シュガースター
☆
「あたしに恋を教えて!」
その言葉に、本を選んでいた僕は目当てのものをばさりと落とした。
なにしろ、カウンターの図書委員を除くと僕しかいないような静かな図書室だ。
その音はやけに大きく響いた。
それほどの衝撃を与えてきた金原 千菜さんとは、中学2年生。
僕と同じ3組の女子生徒。
明るく元気。
表裏がなく、なんでも言葉にできる強い人だ。
言い方がきつくなることがあっても、素直な彼女はきちんと謝ることができるからだろう。
友だちが多い。
丸く大きな瞳はいつも好奇心旺盛で、輝いていて。
頭の上の横のあたりで束ねられている、わずかにくせのある髪は、動き回っても邪魔にならないよう肩に触れない程度の長さ。
そんなハツラツとした彼女と対極の僕。
黒縁眼鏡に長めの髪が表情を隠して、筋肉のないひょろひょろの体。
地味で、いつも教室の隅で本を読んでいる。
僕は千菜さんには不釣り合いだとわかっている。
似合わない、分不相応。
それでも、春からずっと彼女を目で追っていた。
────好きだから。