先生、私じゃダメですか?
「何でしょう? 」
俺はなるべく
感情的にならないように気をつけ口を開いた。
「娘さんに心配したりしないのですか?娘さんに何があったのか知りませんし、他人が首を突っ込むべきではないと分かっています。けど…… 」
可哀想じゃないか。
車の中での吉野さんの表情。
家に近づくにつれ、
泣きそうな辛そうな
表情に変わっていった。
「親が自分の子供を心配しないのは、それは親失格だと僕は思っています。なのでーー 」
「人の家庭に土足で上がらないでくださるかしら? 娘のことは感謝しております。では、私はこれから用事がありますので失礼させていただきます」
会釈をし彼女は家に戻っていった。
「お嬢様」
「渋谷さん、本当にありがとうございました。失礼します」
さっきとは違う言葉遣い。
何も感じない無表情さ。
確かに俺は他人だし、
吉野さんとは昨日会ったばかりだ。
首を突っ込むべきではない。
でも吉野さんの表情を思い出すと、
胸が締め付けられ
何とかして助けたいと思ってしまう。
でも……
もう会うことはないだろう。
何か特別なことがない限り。