先生、私じゃダメですか?
「お仕事中、失礼します。今、大丈夫ですか? 」
「ん?あー、吉野さん。大丈夫だよ」
渋谷は、
私を見て目を細めて笑った。
渋谷の何気ない笑顔でも、
私の心臓は大きな音を立てる。
「これ、林間学校の資料です」
「ありがとう。今日はこれで帰るの? 」
「はい、そうですけど…… 」
私がそう言うと、
渋谷は私を真っ直ぐ見た。
「こうして資料とか出してくれて、教室から職員室までまあまあ遠いのに渡しに来てくれてありがとう、吉野さん」
”ありがとう”
って人から言われるのは嬉しい。
けど、
渋谷から言われるのは
嬉しいという言葉だけじゃ足りない。
凄く幸せな気分になる。
「じゃあ、気をつけて帰ってね」
私は頷き職員室から出た。
”ありがとう”
ただそれだけの言葉なのに、
こんなにも嬉しくなってしまう。
やっぱり、
この係りをやって良かったな。