優歌-gental song-
優歌さんはぼくの隣に来ると座った。


そのまっすぐで柔らかな瞳に空の青を映して。


ぼくもその隣に座った。


「ぼく、らしい?」


「そう。優しくて、穏やかで、なんでも包み込んでしまうみたいな安心感があって。

千尋くんそのものだと思ったよ」


…もう、やめてほしい。そういうのは。


目を細めて、穏やかな笑顔で。


そんな優しくて嬉しいを言われてしまったら、ぼくは。


ぼくは。


勘違いを してしまうから。



「…ありがとう」


ぼくはそう言って笑った。


どくんどくんと跳ねている心臓の音がばれないように、必死で隠しながら。



「どうして歌が嫌いなのか、聞いてもいい?」


優歌さんはそんなことを聞く。


「あ、ごめんなさい。言いたくないことなら、いいの」


優歌さんは慌てて言った。


「無理に言わないで大丈夫だから。ごめんなさい。忘れてくれて、構わないから」


慌てて謝るその姿が、とても可愛らしく思えた。


「…昔は、ぼくも人前でよく歌ってたんだ。

歌うことが好きで、歌ったら上手だねって褒めてもらえて。


それがすごく、すごく、嬉しかったんだ」


ぼくは目を閉じて、過去を語りだした。
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