優歌-gental song-
その瞳いっぱいに涙を浮かべている。


「ど、どうしたの?」


ぼくは慌てた。


優歌さんは掠れた声で「…ない」と言った。


「そんなこと、ないよ」


ぼくを見た。


強い意志のある、まっすぐな目だった。



「歌が上手でも下手でも、賞をとってもとれなくても、千尋くんは千尋くんだよ。

そんなことで千尋くんの存在する価値を決めることはできない。

それに、千尋くんには何もないわけじゃない。

歌が上手なこともそうだけど、たくさんの優しさを持ってるよ」



まっすぐ、まっすぐに胸に響いた。



「…ありがとう」


ぼくは胸がいっぱいになった。


あぁ、本当に幸せ者だと思った。


こんなにも優しいことばで満たされている。



ねぇ、と優歌さんはぼくに言った。


「また、千尋くんの歌を聞かせてよ」


「ぼくは、下手だよ」


「下手でもいいよ。

私、千尋くんの歌が好きだから」


優歌さんは笑った。


まぶしいくらいのその笑顔に、ぼくも微笑み返した。


今度は人前でも歌を歌えるんじゃないかと、根拠もなくそう思った。

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