優歌-gental song-
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翌日教室に行くと、優歌さんは窓際の自席で友達と談笑していた。
その手には本を持っており、また読書している最中にでも話しかけられたのだろうと思った。
しばらく優歌さんを見ていると、彼女と視線がぶつかった。
目を細めて微笑まれる。
ぼくは急に恥ずかしくなった。
優歌さんの瞳にぼくが写っている。
それを自覚すると、なぜか緊張して手足が震えそうになる。
恥ずかしさのあまり、もう視線をそらそうかとも思ったけれど。
ぼくはそれを選ぶのをやめた。
ぐっと拳を握って、微笑み返した。
いつも通り、いつも通り。
それを心がけて、できるだけ自然に笑おうと頑張った。
でも、やっぱり不自然な笑顔だったと思う。
心臓が痛くなるくらい緊張しているし、ひきつっているなと自分でも分かってるし。
どれだけ自分の笑顔が酷いのか、鏡を見なくても想像がつく。
あぁ、自分が情けない。
軽い自己嫌悪に陥りそうだ。
優歌さんはそんな僕を見て少し目を見開くと、さらにやさしい顔で微笑んでくれた。
そのやさしい笑顔は、ぼくの自己嫌悪なんて簡単に吹き飛ばして、代わりに希望をくれた。
うれしくて、ひとりにやけそうになる口元を引き締めながら自席についた。
「おはよう」
朝礼前のクラスのざわめきの中でもはっきりと分かる、快活な声。