優歌-gental song-
歌-song-
どくん、どくん。
鳴りやまない心臓の鼓動は、決して甘いものじゃない。
絶望の色を含んで、
もっと苦く
もっと鋭く
ぼくを、貫く。
*
バン、と荒々しく扉を開け放って、飛び出した空の下。
屋上へ続く扉にかかっていた鍵は古く、実はその役目を果たしていないことはずっと前から分かっていて、僕はよく屋上へ通っている。
ぼくはフェンスの前に座り込み、ぼうっと空を眺めた。
夕暮れ時の空に流れる雲は橙色のような、桃色のような、どっち付かずの淡い色をしていた。
ぼくはすう、と息を吸う。
吐き出すと、それは旋律になっていた。
いつか歌ったことのある歌。
穏やかに、ゆっくりと流れる雲。
刻々と変化していく空の色。
もう少しで地平線に消える太陽。
ぼくはそれを眺めながら、優歌さんを思い出していた。