優歌-gental song-
「フラれちゃった」


優歌さんはそう言って笑った。


「他に好きな人がいるんだって」



あはは、と乾いた笑みを浮かべている。


「届かなかったんだ」


優歌さんは遠い目をした。


その儚げな瞳から目を離せなかった。


ぼくはハッと息を飲んだ。


優歌さんの瞳から涙が滲んで、つう、と頬を伝った。


「あれ、どうしてかな?」


優歌さんはその白い長い指先でしずくを拭った。


「今になって、どうして」


あはは、と笑いながら、いくつも零れ落ちてくるそれを拭った。


「そんな顔しないで」


ぼくの方を見ると、優歌さんは少し眉を下げて困った顔をして笑っていた。




「千尋くんは気にしなくて大丈夫だよ。私はもう、大丈夫だから」



どこが。


どこが、大丈夫なんだ。


笑いながら涙を浮かべている、それの、どこが。



ぼくはまた拳を握りしめた。


こうして目の前で傷ついている優歌さんを見ているのに、何もできない自分に腹が立つ。


同時に悲しくも情けなくなった。


優歌さんが弱みを見せてくれないことが、こんなにも辛い。


それほどぼくは彼女に近い存在ではなかったということなのだろうか。


千尋くん、と下の名前で呼んでもらえるようになって、少し距離が縮まったと思っていたぼくは、なんて浅はかだっただろう。


全然、近づいていない。



こんなにも



こんなにも、遠い。



「大丈夫だよ」



優歌さんはもう一度そう言って、目を閉じて微笑んだ。


それはぼくに言っているようでもあったし、自分に言い聞かせているようでもあった。


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