優歌-gental song-
*
それから優歌さんは「もう帰るね」と言って屋上を後にした。
声が少し滲んでいて、引き留めようとも思ったけれど。
でも、ぼくにはできなかった。
遠ざかる優歌さんの白い腕を、掴むことはできなかった。
1人、灰色の空の下。
今にも降り出しそうな空を見上げていると、今になって視界が滲んできた。
何度も滲む涙を拭っては歌った。
声は震え、音程も不安定で、とても素敵な歌声ではないのは自分でも重々分かっている。
それでも止められなかった。
止めようとも思わなかった。
とめどなく流れ落ちる涙と共に、優歌さんの泣き顔が頭を過る。
声を押し殺して泣いていた、優歌さんのか細い泣き声が耳にこびりついて離れない。
…優歌さん。
きみは今、どこにいるのだろう。
学校、教室、それとも家の中だろうか。
ぼくは今、この学校の屋上で歌っているんだ。
今にも降り出しそうな曇天の中、歌っているんだ。
もし、きみが一人膝を抱えてあいつのことを想って泣いているのなら。
忘れろ、とも
泣くな、とも
言わないけど。
どうか耳を澄ませてほしい。
ぼくの歌を、聞いてほしい。