優歌-gental song-
ぼくは歌うのをやめて辺りを見渡した。


曇天の空の下には何もいない。


人も、烏も、車さえ、通らない。



たぶん、きっと。



ぼくの見える場所に、きみはいない。


きみの見える場所に、ぼくはいない。



それでもいい。


目を閉じれば、そこに君はいる。



ぼくは息を思い切り吸い込んだ。


湿った空気が肺に流れ込む。


そしてそれはぼくの声帯を震わせて、また大気へと戻っていく。


旋律はぼくを包み込むように響いた。




…優歌さん。


きみは初めて会ったときから、どこまでも優しくてまっすぐだ。


きみを苦しめているその想いだって、簡単には手放せないのだろう。


そして、きっとぼくの想いがきみに届かないだろうことは分かっているよ。



分かってる。



だけど、それでも、ぼくは



歌うよ。



例え、この声がたとえ枯れたとしても。



君に届くまで




何度でも。






                    fin.







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