tear/skill
手を振って私は病室から出た
「あーあまずったかな」
低く笑った頬に涙が伝う
ガラにもないなんで泣いてんだ俺
コンコンとノックの音
看護士さんが顔をだした
「悠真くん?」
「平気」
「じゃあまた後で来るわね」
大丈夫、平気なんてウソ何回重ねたらおまえは振り向いてくれる?
好きになってくれますか?
教えて未完成な俺に
陽菜おまえの名前、呼ぶ度に胸が苦しくて仕方ない
おまえのためならどんな犠牲も払ってやる
涙は声にならない慟哭に
私はいちど家に帰ることにした
お風呂場の鏡
悠真がつけた痕がちくりと痛む
お風呂につかりながらふと考える
本当に璃玖でいいのかな
璃玖を選んだら悠真はどうなるの
いけないいけない
ブンブンと首を振ってお風呂のお湯で顔を洗う
私には璃玖しかいない
色々と考え込んでいたら長風呂になってしまった
お風呂からあがって携帯を確認した
波瑠からのライン
いまなにしてるの?
お風呂だよ~♪
いま電話平気?
平気
着替えて着信を待つと意外な相手だった
「さあ俺は誰でしょう」
「悠真?!」
そういえば波瑠は悠真の元カノだもんね
とんだ、だまし討ちだわ
「声は小さくな病室の消灯時間だから」
「うん」
「言いたいのは幸せになれよってだけ」
「···なれないよ」
「はあ?」
「こんなに失うのが怖いのは初めてだもん」
「バカ···人がひいてやってんのに」
「悠真泣いてる?」
「さっきからおまえがいなくなってからとまらない
おまえが答えを決めたなら俺は待つのをやめるよ
愛してた、おまえを過去形にしたくないけどしなくちゃいけない
会えてよかった
それでサヨナラ
おまえはそれでも笑って俺の前に現れて普通に話せますか?」
悠真の言葉ひとつひとつがガラスの破片みたく重く突き刺さる
「わからない」
「狡いな
本当は事故で彼氏が運ばれてきておまえが俺に話しかけてきて嬉しかった
不謹慎だろ?
でも俺はずる賢いから言わなかった」
「どっちがずるいのよ」
「なあ俺がいまどこから話してるか知ってる?」
「病室?」
「わからない?聞こえない?
こんなに風が強いのにさ
じゃあヒントをあげる」
悠真からの通話がきれて写メが送られてきた
綺麗な夜景
ってまさか
また通話
「悠真」
「ん?聞こえてるよ
でももう聞きたくない」
もっと長く話していて私が病院につくまでなんでもいいの
ガシャンと音がして通話がきれた
急がなきゃ
ダメ···
届いてこの思い
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