擦り切れてしまった女性の場合

 何処からかひぐらしの声、隣の部屋のベランダに吊るされている金属製の風鈴の音色。
 そして、突然の爆発音。
 その音に驚いて、私は霧散していた意識を集中させ、寝ころがった体勢のまま、ベランダの外に目をやる。
 花火だ。
 何発も打ち上げられる色とりどりの花たち。
 小さいのから大きいの、何かを模したもの、たくさんの、本当にたくさんのもの。


 ふと、気がつくと私は涙を流していた。


 花火に感動した。というわけではないと思う。
 では、何か。
 何だろう。
 感情の渦が、私の胃袋の少し下辺りでぐるぐると消化不良を起こしている。
 その中に手を差し込んでみるが、そこから拾い上げることが出来た感情は、何も無かった。
 いや、小指の先ほどの寂しさ、だろうか、それに似た何か、を拾ったような気がする。

 そんな、気がする。

 「おやすみなさい」

 声に出して、ゆっくりと目を閉じる。
 涙は拭かない。
 目覚ましも、かけない。
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