月明かりの下
今年の夏は、どうやら本気モードのようで、自転車のサドルは、熱されていて座ることさえ許してはくれない。


私は自転車を押しながら歩いていると、ふと懐かしい記憶を思い出した。

小学生の私。
海沿いの道を泣きながら、自転車を押しながら歩いている。
私の小さな肩を抱くパパの大きな手…。

「パパ、もうバレー辞めたいの」


「パパは瑠奈が踊ってるの見るの好きだよ」


「思った通りにカラダが動かなくて…」

「そりゃあ~いきなり上手くはならないさ。いいか瑠奈、諦めることはいつでもできる。だけどそれはクセになってしまう」


「…クセ?」


「逃げるクセだよ。諦めないで続けてごらん?いつか瑠奈を助けてくれるから。パパは瑠奈の応援団長だからな(笑)」


そう優しく諭してくれたパパは、もういない。

どこへ行ってしまったの?

この空虚さに出口はあるの?

この淋しさに出口はあるの?

私は、どこへ向かって歩いていけばいい?

教えて、パパ…。

自転車を押す手に、大粒の汗と一筋の涙が落ちた。
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