月明かりの下
頼りない記憶をたぐりよせ、一人無駄に悲しんでいるうちに、バイト先の『海之風』にたどり着いた。

私は自転車をとめて、あまりの暑さにしゃがみこんでしまった。
アスファルトの照り返しの熱気も、
鳴きやむタイミングを逃したように、鳴き続ける蝉の声も、
全てが全て邪魔くさく思える。

「今年の暑さは異常だね」

頬に冷たい感触を感じ、上を見上げると、先日面接をしてくれたおじいちゃんが麦茶を持って立っていた。

私は、「すいません」と一つ頭を下げ、キンキンに冷えた麦茶を一気に飲み干した。

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