独りの世界に囚われた女性の場合
 冷たいドアノブや、金属の擦れる嫌な音は、このドアが私を私の空間に入れさせないための嫌がらせに思えて仕方がない。
 しかし、私はドアを開け、自分だけの空間に潜り込む。
 放り出すようにスニーカーを脱ぎ捨て、電気はつけず、何日も放置された食事の後のモノが散乱している台所を通り、居間へ着くなりそそくさと部屋着に着替え、テレビのスイッチを入れた。
 モニターからは何かわからない通販の番組がやっていた。しかし、そんなのに興味は無い。兎に角、静寂が嫌だった。それだけの理由。
 一人では少し大きすぎるクッションに座ると、私は溜め息を漏らす。
 鬱蒼とした空気がこの空間を包んでいる。
 かつて、ここは暖かい空気で満ちていて、とても居心地の良い空間だった。だが、今はただ居ることが、不快で堪らない。
 でも、今の私にはお似合いなのだろう。
 そんな自虐的なことを思って、少し歪な笑みをうかべる。
 部屋の真ん中にある小さなテーブルの上に目をやると、薄く紅色を吸いとったような剃刀の刃が散乱している。
 ふと、頭をよぎる自傷による快楽への衝動。
 私は、それらに一度手を伸ばそうとしたが、やめた。今日はもう苦痛でしかないアルバイトで疲れ切ってしまった。
 寝室には行かず、私は少し固いクッションに身を沈める。
 目覚ましかけておかないと、そう思った時はもう闇の中。
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