独りの世界に囚われた女性の場合
 「いらっしゃいませ」
 蚊のような囁き、とバイトの人たちは、私が働き始めたとき、私に聞こえるように言っていた。
 しかし、そんなこと、どうでもいい。手を動かしながらも、私は意識を別の世界に持っていく。
 これが私の、およそこの空虚に満ちた数年で唯一手にした「皆」の世界で生きていく方法。
 だって、現実は、この世界は、あまりにも汚くて、酷くて、それなのに、さっきの夕日のように美しいから。

 そして、私は今日も私の世界に戻っていく。

< 7 / 11 >

この作品をシェア

pagetop