嫌われている君がスキ
「おい!こっちにパスパス!!」
体操着姿の男子が誰かに向かってそう叫ぶ。
バスケットボールの跳ねる音と、床にシューズがキュッと擦れる音。
今日の体育は、体育館でバスケットボールだ。
運動の得意な男子と少数の女子がコートを陣取って思うがままにスポーツをする。
一方、私はその他の女子と体育館の隅っこに並んで座って、ただただバスケをするクラスメイトを見学。
この時間は割と好き。
ぼーっとする事もできるし、友達と他愛もない話をすることができるから。
でも、私は最近この時間ずっとある人を目でおっている。
誰かって?
ご存知の通り、峯君です。
その峯君は、コートの中でつまんなそうに突っ立って足をブラブラさせている。
多分、本当につまんないんだろうな。
だって峯君の周りには誰もいないし、当然のようにパスがまわってくる事もないんだから。
明らかに今のポジションで峯君にボールをパスしたら成功するって時でも、クラスの男子は峯君にパスはしない。
あからさまに峯君を避けている。
「おい!誰か貰いにこいよ!」
「はーい。俺がもらうよー。」
峯君が、ヒラヒラと手を上に挙げてパスを要求。
でも
「うっせぇ!お前じゃねぇよ!」
らしい。
そう言われれば峯君はまたダルそうに手を下げて腕組をした。
……うん、彼があそこにいる意味がよく分からない。
つまらないなら私達みたいに壁際に寄って座っておけばいい。
そう思うけど、そうしないのが峯君。
「うわ~。まじで峯。あいつの態度なんなの?」
隣に座ってる女子がうざそうに言う。
「それな。見てて思ったわ。何あの俺はダルいからやりませんみたいな態度。大人ぶってるつもりなのかな?」
その子の隣に座ってる誰かもそれに同調し始める。
「そーだったら引くわー。ぶっちゃけさ、峯って顔だけだよね。」
「わかる。わかる。何も喋らないで真顔で座っといてくれればマシだわ。」
「ぷっ、わかるそれ!」
……うん、相変わらずだ。
峯君は嫌われ者。
「ね、斎藤ちゃんもそう思わない?」
斎藤ちゃん。
それは私の事だ。
「え?」
突然の質問に聞き返すと、その女子は決まってるじゃんと言わんばかりにニヤッと笑った。
「だから、峯の事。うざくない?」
あぁ…明らかに私に同調を期待してるな、この子。
「別にうざくないと思うけど。」