オタクな私にリア充の兄が出来た件wwww
髪を掴まれて、引きずられて、殴られるかと思った。

また、痛い思いをするのかと思った。

思い出しただけで、恐怖が蘇ってきて涙がせりあがってきた。


けれど、現実は違った。


「……ばーか」


私を罵るけれど、その手は私よりも遥かに大きいけれど、恐怖を抱く対象ではなかった。


「ちょ、やめてよ」

わしゃわしゃっと、髪の毛を乱すと、宮崎さんは笑った。

女の子達に囲まれていた時とは違った、幼い笑顔で楽しそうに私の髪で遊んでいる。


「うっせ。俺をバカにしたお仕置きだ」

溢れ落ちそうになった涙は、宮崎さんのせいで引っ込んでしまった。

「……そんなに私の髪の毛、面白い?」

「見てみろよ」

宮崎さんは仕上げと言わんばかりに、豪快に乱すと、携帯で写真を撮った。

「肖像権の侵害」

「クソオタクのクセに、真面目な事を言うな。ほら」

突き出された携帯画面の中には、目を真ん丸くした私がいた。

まるで、サイ○人化したかの様なあれっぷりのヘアスタイルと、拍子抜けした表情のアンバランスさが滑稽だ。


「……可笑しいの」

クツクツ、腹の底から笑いが込み上げてきて、涙まで落ちた。

けれど、今度の涙に怖さは含まれていない。純粋な楽しさからだけだ。


不服だけど、あの暗かった気持ちを変えてくれたのは宮崎さんだ。感謝せざるを得ない。

仕方がないから、一度だけなら、お茶をくんでやっても良い事にしよう。


笑う私に対し宮崎さんは、安堵の表情を浮かべていた。

助かった、と息をついている様にも見えたが、敢えて触れなかった。


*


晩御飯の時間よ、と母に呼ばれて居間に出れば宮崎さんの父親がいた。

お母さんの手伝いをしているみたいで、仲睦まじげな雰囲気に安堵する。

いや、宮崎さんの父親も宮崎さんだから宮崎さんか。……ゲシュタルト崩壊。


「呼び分けが難しいな。宮崎さんパパ?いや、マサキ父?……いや、流石に早すぎる」

「ブツブツ、呪文でも吐いてるのか。気持ち悪い。部屋の前で止まるな」

お母さんにも聞こえない様な声量で罵る宮崎さん。流石、猫被りのプロ。わきまえている。


「いや、少し混乱したみたいで」

「ケントで良い」

「は?」

「親父と俺の呼び名に困ってるんだろ」

「でも、宮崎さんが名字にしろってーー」

「ケント。以外受け付けねぇから。……だが、リリコさんの前では“お兄ちゃん”を忘れるな」


背中を押された弾みで動きだし、いつもの席に座った。いつもの様に、私の前にはお母さんが座る。

いつの間に買ったのか、新しい椅子が二つ置かれている。

その内の一つは私の隣にあって、宮崎さ……ケントが座った。


「……母親の手作りなんて久し振りかもしれねぇ」

「え?」

確かに聞こえたケントの小さな一人言。

ケントは私が聞き逃したのだと解釈すると、静かに首を振った。


その審議は宮崎さんの運んできた料理で、打ち切られてしまった。

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