オタクな私にリア充の兄が出来た件wwww
「いっただっきまーす」

お母さんの華やかな音頭を合図に、手前の沢庵に箸をつけた。

こきゅこきゅ、口の中に広がる和の味が何とも言えない美味しさだ。

いつもの倍以上の料理が食卓に並び、次を選ぶだけでも迷ってしまう。

始めての四人の食事だから、お母さんも奮発したのだろう。

普段は並ばない様な銀鱈やら蟹まで食卓を彩るなんて、豪華の極みだ。


「ルルちゃん、美味しそうに食べるね」


「は、はぁ。まあ、好きなんで」

向かいに座る宮崎さんが、私に笑顔を向けた。

ケントの商品化された笑顔とは違い、善人の塊が溢れて落ちた様な笑顔だった。


ケントを二十歳程、年を取らせた様な風貌だが、垢抜けた優しさが滲み出る表情だ。

何というか、嫌いになれないオーラがする。


「それにいつも、こんな料理、食卓に出ないですし」


「やー。そういう事は言っちゃ駄目でしょう。折角皆の為に頑張ったのに……」

「リリコさんが頑張ったのは分かりますよ」

照れて恥ずかしがるお母さんに、宮崎さんは「これからも、たまにで良いので作ってくださいね」と、笑いかけた。


見てて恥ずかしくなる様なやり取り……でも、幸せだなぁ。


「そう言えば、ケントくんには、これから一ヶ月間ルルの部屋で住むんだけど……やっていけそう?」

「勿論ですよ。もう僕らこんなに仲良くなったんですから、ねえ。ルルちゃん?」

ケントが“ルルちゃん”と呼ぶと生理的に鳥肌が立ってくる。

止めてくれ、その営業用キラースマイルは。


「そうだよ、お母さん。“お兄ちゃん”は優しいし、面白いし、明日からも楽しみだなぁ」


知りませんでした。嘘がこんなにも簡単に、口から出ていく物だったなんて。

まあ、ある意味面白いか。こうやって猫被るケントの内心が、酷く汚いと知っているから。


「もうお兄ちゃんって呼んでるのね。打ち解けたみたいで嬉しいわ」

単純なお母さんはたったそれだけの会話で、満面の笑みを浮かべている。

演技なんだけどね。

なーんて、言える筈もないので最後までボロを出さずに、食事を終えた。



「はーあ。疲れる」

ぼふん、とベッドに飛び込んだ。
オークションで三千円で競り落とした、ユウヒ様ベッドカバーは今日も素敵な色気を振り撒いていた。

疲れが溜まった日は、ユウヒ様の大胆に開かれた胸元に収まって寝るのが常なのである。


「あー、ユウヒ様が抱き締めてくれているから、疲れも癒されるー」


「……きっも」

「そう言えば私一人だけの部屋じゃなかったー……」


扉の前で私の奇行に引いた様子のケントは数歩下がって、扉に肩をぶつけていた。

あれ。そんなにも引かれる様な事をした覚えはないのだけども。

しかしこんなことでへこたれる程、私のメンタルは弱くないので、ユウヒ様の腕の中でゴロゴロ転がった。


「……お前の荷物片付けろよ。邪魔だ」

「私は片付けると死ぬ病気で」

「燃やすぞ」

「ごめんなさい。片付けます」

大切なキャラクターグッズ達にごめんね、と謝りながら段ボールに詰めては押し入れにしまっていく。

ああ、ごめんね。すぐに出してあげるから。大事にしていてね。

「今生の別れじゃねーんだから、さっさとしろ」

「はいはい。……って、ケントの荷物ってそれだけしかないの?」

「悪いか」

「いや、悪くないけど……」

廊下から運んできた段ボールを二個置くと、ケントは開き始めた。

中には勉強道具だけしか入っていない。遊び道具や本すらもないのだ。

私は娯楽にまみれているというのに、目の前でお預けを食らわすのも申し訳ない。


「これ、貸してあげる」

「は?」

「別にあげる訳じゃないから。趣味がなくて可哀想だから貸してあげるだけだから」

無理矢理ゲーム機を持たせると、ケントは口を半開きにして、驚いていた。

ゲーム機を知らないのだろうかと、説明をすれば、知っているの一言で一蹴された。

何だ。私が貸すと言ったのに嫌なのか?


「意味が分からねぇ」


ケントはゲーム機を掲げると笑い出した。

正直気持ち悪いと思うが、嬉しかったのなら何よりだ。



「ところで、中身は何が入っているんだ」

「乙女ゲーム」

「俺がやるか、阿呆」

「あうっ」


二回目のデコピンをくらった。
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