オタクな私にリア充の兄が出来た件wwww
“頑張って、強がって、張り裂けたって”


“僕が治すから”


“欠片を拾うから”


“ぶつかりにいこう”



甘く緩いテンポと、透き通る様な声が木霊する。

ユウヒ様は負けそうになった時にはこのサビを口ずさんでいた。


私も、負けないよ。ユウヒ様。

変な奴が兄になっても、そいつに弱味を握られても、私は絶対に動じたりしないから。

いつも通りの気持ち悪い位の二次元オタクを忘れずに、貢献するから!!



「風呂、入ったから」

「っ……ビックリした……」

突然、ヘッドホンを取られて目を開ければ、目の前にケントがいた。

首にかけたタオルで、頭をがしがし拭いている。


風呂あがりなのに眼鏡をかけているからか、湯気でくもっている。



「わざわざ俺が教えてやったんだ。感謝しろ」

「……はあ」

首を傾げながら、タンスからパジャマを取り出した。

何故上から目線なのか意味が分からないけど、深く関わらないでおこう。

部屋を出る前に振り返って、一面を指差した。


「あー、壁にかけてある物とか壊さなければ触って良いから」

「オタクグッズに俺が興味持たねーよ」

「このアンチオタクが」

「腐れオタクが、さっさと行け」

くそっと、漏らしながら戸を閉めた。

ああ、危ない。お母さん達の前では、仲の良い兄妹のフリをしていないと……

風呂場への扉へ手をかけた時だった。


「ルルちゃん、……ちょっと良い?」

「あ、おとぅ、さ」

“お父さん”

簡単な単語なのにするっと喉から出てこない理由が、脳裏をよぎった。

頭の中でなら簡単に言えるのに。

「正直な所、ケントと仲良くいってる?」

「ま、まあ、普通に仲良いです、よ」

大人の男の人と二人っきり。

それも、隠れる様にコソコソ話すモノだから、変にドキドキしてしまう。

「そう。良かったー」


宮崎さんはくしゃくしゃの笑顔を見せた。

本当に人が良いのが伝わってくる。

嘘を付いている罪悪感に胸が締め付けられそうだった。


「あの子、天の邪鬼で迷惑かけるかもしれないけど、根は良い子なんだ」

「そうなんですか」

良い子だと思えないけどね。

「だから、あの子を信じてやってね。特にあの子が笑っている時には」

「は、はい」


宮崎さんは申し訳なさそうに笑うとお母さんの方へ戻っていった。

……笑っている時には?


不思議と引っ掛かるフレーズに頭を悩ませながら、シャワーを浴びた。
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