禁断のプロポーズ
第三章 禁断のプロポーズ
未咲が口を開きかけたとき、それを塞ぐように智久が言った。
「もう一回言ってくださいは、なしだ。
何故、そうなるのか。
どうして俺がそれを知っているのかとか訊くなよ」
「……じゃあ、それ以外、ひとつだけいいですか」
ひとつならいい、と智久は言う。
未咲は俯きかけた顔を上げ、智久に訊いた。
「あの日、貴方と私が出会ったのは、偶然ですか」
「出会ったのは偶然だが、声をかけたのは気まぐれじゃない。
お前がその顔をしていたからだ」
姉が入社するより前の話だ。
姉に似ているから、というのではなかったはずだ。
「……水沢さんも似たようなことを言ってました」
と言うと、そうか、と言う。
「そんな事実があるのなら、何故、早くに教えてくれなかったんですか」
「確証がなかったからな。
だが、一応、忠告はしておいたぞ。
夏目はやめておけとな。
……未咲?」
俯いてじっとしていた。
とりあえず、動きたくなかったからだ。
ふいに、誰かの体温を鼻の辺りで感じた。
ぽんぽん、と背中を叩いてくれたのが、智久だとは思わなかった。