禁断のプロポーズ
第一章 オフィスの罠
離れて住んでいた姉が自殺した。
世話になったんだか、迷惑をかけられたんだか、よくわからない姉だったが。
何故、彼女が自殺という道を選んだのか、知りたい。
そう思ったけれど、家庭の事情により、あまり身近に居なかった姉なので、その気持ちを推察することは難しかった。
だから、少しでも、姉の居た環境を知りたいと、あるツテをたどって、姉の勤めていた大企業に入社した。
所属も姉と同じ、第二秘書課。
最初はちょうどよかったと、それを無邪気に喜んでいたのだが。
入社してすぐのこと。
未咲は、たまたま、第一秘書課の水沢克己(みずさわ かつみ)と一緒に廊下を歩いていた。
「こんな立派な会社に入れるなんて、夢のようです。
しかも秘書課だなんて」
思わず言った未咲に、克己は笑って言う。
「そりゃあ、君、顔がいいから」
「は?」
「秘書も二つに分かれててさ。
君が配属されるのは、愛人課」
「愛人課!?」
「ああ、ごめんごめん」
と克己は爽やかに笑うが、言うことはロクでもない。
「本当にそうなんじゃなくて、お客様がいらしたときに、お茶を持って出たりとかに必要なただの美人って意味。
顔だけで、秘書に居られるから、みんなそれを揶揄して、愛人課とか言ってるの」
そうですか。
じゃあ、貴方は顔で配属されたわけではないんですね、といじけて言いそうになった。
名前は完全に日本名だが、克己はハーフだ。
茶がかった髪も白い肌も、透き通るような瞳も美しい。
が、毒舌だ。