空っぽのイヤホン(仮)
そのとき

「あ、予鈴。」

「ほんとだ、でもずぶ濡れ。
教室戻れないや。」

半笑いで言った五十嵐の言葉に
確かに、と自分の身体を見ると
Yシャツが見事に透けてしまっていた。

こちらに視線を移した五十嵐が
それに気づいて「うわあ!」と声を上げる。

すぐに顔ごとそっぽを向いたと思ったら
雑に脱いだYシャツをぐい、と押し付けてきた。

「俺、中にTシャツ着てるし
それ羽織ってていいよ。」

「……ありがとう。」

結局五十嵐のYシャツだって濡れてるんだけど
ないよりマシだと判断したのだろう。

俺やっぱり教室戻る、と五十嵐が立ち上がった。

私が「うん」と頷くと
ニッと笑って五十嵐は扉を出て行った。

借りたYシャツを羽織ってみると
塩素と混じって甘い匂いがした。
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