空っぽのイヤホン(仮)
五十嵐は泣いてないけど泣いてるみたいでしばらくの間動かなかった。

「みっこ、いい匂いするー。」

すん、と首の匂いを嗅がれて
ゾワッと寒気が走った。

「何それ、なんか変態っぽい。」

「んー…。甘い、匂い。」

私からしたら、五十嵐の声の方が甘ったるくてしょうがない。

「もしかして五十嵐、眠い?」

「ちょーねむい。」

妙に舌足らずだと思ったら。

寝てなよ、と身体を捩ると
今度はするりと抜けることができた。

コンクリートに横たわる五十嵐。
すでに寝ているのかいないのか。

「おやすみ。」

私はそっと屋上を出た。
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