藍くん私に触れないで‼
藍くんの背中を見たあと、私は部屋を出た。
それからの行動は早かった。
走って、一直線に家へ帰り、もう寝ているお父さんやお母さんを起こさないよう自室にいった。
さっぱりして、味気ない自分の部屋。
久しぶりで、少し埃っぽい。
だけどそのままベッドに転がり込んだ。
藍くんの家に居たから、ちょっとやそっとの汚れや埃には慣れた。
なんだか疲れた。私、昨日まで普通に藍くんの家で普通に過ごしていたのにまさか追い出されることになるなんてまったく思っていなかった。
これから先のことなんて、一度も分かったことはなかったけど。
そう。藍くんのいない未来を想像したことは、一度もなかった。
いつから?
昔はそんなことなかったはず。
藍くんが居なくなったのは突然のことだった。
私と藍くんは、別に家が近いわけでもなかった。
出会い方を忘れていたけど、そんな大したものじゃない。
ただ、通りすがりに彼を見つけて一方的に一目惚れした。
藍くんの家は、とても小さくて、汚くて、藍くんの家にはあまり行ったことがなかった。
いや、藍くんに来るなって言われていた。
だから、一緒に遊ぶのは、近所の公園だけ。
藍くんの家族は、お母さんだけ。
優しそうなお母さんだった。
何度か、顔を合わせたことがある。
ただ、声はかけてこない。
ずっと小さく笑っていた。
藍くんを見つけて、遊ぶようになってから、数ヵ月くらいたったときだ。
藍くんは、私にあの約束をして忽然と姿を消した。
引っ越したというのは後から聞いた。
彼はそんなこと一言も言っていなかった。