藍くん私に触れないで‼
すると、中から1枚の紙が落ちてきた。
拾って見てみると、ピンクの封筒だった。
表には藍くんへ、と綺麗な文字で書かれている。
ラブレターかと思い、裏を見てドキッとした。
母よりの文字。
いや、よく見てみれば、開封しようとしたのか少しだけ接着面が剥がれていた。
けど、完全に開かれていない。
私は、とりあえずその手紙を小脇に起き、日記を開いた。
一ページ目は四年前だった。
その日記を中学の入学式にお母さんから貰ったということが書かれていた。
パラパラと捲っていくと、日常の中であったことが書かれている。
学校でテストがあったことや、帰り道に猫を見つけたこと。そんな他愛のないことばかりだった。
そのなかで、ぽつらぽつらと、お母さんのことも書かれていた。
病弱なお母さんのために、掃除をしたり、洗濯をしたり。
そのせいか、その日記に友達という言葉ははまったくといっていいほど出てこなかった。
入院し始めたのは彼が2年に上がってからのことだったようだ。
それからも、日記は続いていた。何日か飛んだりはしているものの週に一度は書いているようだ。
お母さんの入院から、日記はそればかりになっていた。
【入院したら、病気がなくなるらしい。けど、ずっと友達作らなかったから、今更出来るかな】
【母さん最近俺が行くとよく寝てる】
一日分の日記は短かったけれど、そのときの様子がなんとなく浮かび上がってくるようだった。
藍くんは、このときまだお母さんの病気のことをよく知らなかったのかもしれない。
更に捲っていく。
どんどん、日付の飛ぶ間隔が長くなっていた。
【母さんが今日血吐いた。けど、もう少しで治るらしい。なんか、母さんすごい痩せた】
なんだか、文字が震えてきてるような気がした。
ページを捲るのがだんだん怖くなってくる。
けど、捲った。
【怖い 治るって】
それだけの日。
次のページの日付は、今までで一番飛んだ。
2ヶ月後。
その間に藍くんがしたことと、起こったことはすぐに察することが出来た。
その、次のページを見て私は目を見張った。
書きなぐったような、乱雑な文字は、行を飛び越えて何個も連なっている″ごめんなさい″の文字。
力を入れすぎたのか、そのページはところどころ穴があいていたり破れたりしていた。
それだけで、わかってしまった。
彼がこの時どんなに後悔に押し潰されそうになっていたのか。
怖かったんだろうな。
自分のお母さんのどんどん弱っていくのを見るのが。
だから、ほんの少し、現実から目を背けたくなったんだよね。
藍くんは何度も手紙を開けようと思ったんだろう。
だけど、そこに書かれている言葉が怖くて、まだ開けずにいたんだ。
そして、彼もまた、お母さんと同じ病気になった。