藍くん私に触れないで‼
何度も、何度も、夢の中に母さんが出てきた。
ひどく痩せた母さんの腕から伸びる細長いチューブが、母さんから何もかもを奪い取ってるように見えた。
病院を訪れる度に痩せていく母親を見て、
俺は逃げ出した。
最初は、軽い気持ちだった。
クラスの中でも遊んでるようなやつらが、いつも隠れるように隅で過ごしていた俺をからかって遊びにさそった。
俺は、断る言葉を飲み込んで、気がつけば頷いていた。
それからは、泥沼にはまっていくように、そいつらの中に沈んでいった。
夜の町は、目が疲れるほど明るかった。
タバコのヤニ臭さが、なんだか自分を大人にしてくれた気がした。
ちっともおいしくない酒を、我慢して飲んだら、何もかも忘れられた。
なのに、時おり、頭がずきずきと痛み出すとき決まって痩せた母さんが脳裏をよぎった。
その度に、病院の前まで足を運んだ。
だけど、明るい色になった自分の髪と、ピアスの穴に触れると、足が病院から遠のいていった。
追い討ちのように、母さんの薄い微笑みが浮かんだときにはもう、俺は走って家に帰る途中だ。
再び病院に足を踏み入れることが、怖くて仕方がなくなっていた。
最後にみた母さんが、あれ以上に痩せる姿をみるのが、いまの自分を母さんに見せるのが、
怖くて、怖くて、怖くて、
逃げ続けた。
逃げ続けた結果、ある日家の留守電が母親の死を伝えていた。
俺は、そのまま時が止まったように立ち尽くしたあと、なぜか口角が上がったんだ。
そのあとに、頬に何かが伝ってくるのを感じた。
ついに、自分が犯した罪を突きつけられる時が来たのだと思うと、もう、笑うしかなかった。
泣いてる自分が可笑しくて、また、笑った。
泣くくらいなら、何度も入ろうとしたあの病院に一回でも足を入れていればよかったのだ。
俺は、それをしなかった。
その結果が、これだ。
そして、俺の呪いは、
あってしかるべきものなのだ。