藍くん私に触れないで‼


納得いかない部分もあるけれど、とりあえずはそういうことでこの場は納めよう。

今まで色々と失言もしてきたわけだし。
いや、それらはあってしかるべき失言だったけれど。




「学校、遅刻しない?」


「え、あ、ああっ」


「よね。送ってくよ。近いでしょ、バイクならギリギリ間に合うよ」


「……や、やむ終えないです」



というわけで、初バイクを経験する流れとなり、私はいそいで階段を下りていき、彼のバイクの後ろにおそるおそるすわった。



「はい、ヘルメットかぶって」

「こ、これは、あの、綺麗?」

「貰ったやつ、今いそいでおろしたのだから綺麗綺麗、ほら被れ」



ヘルメットを被るというのも、実は初めてだったりする。
以外に、頭が、お、もい…

ぐらんぐらんと不安定な頭をなんとか落ち着かせて、前を向くと、月島…一応先輩なのでさん付けにしておこうか。月島さんの背中がある。



「ほら、手、腰に」

「え?」

「捕まってないと落ちるから、抱きつきなさい」

「え、嫌ですけど」

「そんなこと言ってる場合ですかガキ。送ってやってるのはこっちなんだよ。
四の五の言わず捕まれ、抱きつけ」




う、ううううう…

ひどい、潔癖症の私に藍くん以外に触れさせるなんて…
不覚、一生の不覚…

だけど、そう、今は一生の不覚だろうがなんだろうがそれどころではない。

遅刻したときのあのクラスメイトからの視線に私は耐えられない。

クラスの人気者ならばからかうくらいのものはあるだろうが
私が遅刻したところでクラスが静まり返るだけのことは不可避なのだから。

それは、私にとってとても怖いことなのだよ。


私は月島さんの背中に抱きつくように腕を回した。


「行くよ」


藍くんの家に来てから、私は初めてのことがたくさんだ。
誰かのために料理したり掃除したり、

…他人と関係したり、

弱味を握られたり

バイクのせられたり

傘で足引っかけられたり



ほとんど嫌なことだけど。



誰とも関わろうとしなかった私にしては大きな進歩ではないかな。

今はそう思うことにしよう。


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