藍くん私に触れないで‼
夜9時過ぎ。
私は藍くんの家へ歩いた。
もう自分の中の矛盾に心を病ます必要もない。
私は藍くんが好き。
好きというだけでいい。
他には何も望まない。
彼は彼の好きにしたらいい。
私は彼の側で彼を想っていれればそれでいい。
こうしてまた新しい一歩を踏み出せる。
これからは、もっと、彼をちゃんと見よう。そして、少しでも好きになる理由を見つけよう。
これでいい?
まだなおあなたの家にいる理由はそれで充分?
藍くんの家に近づいてきたとき、向こう側から人影が見えた。それが、藍くんだとすぐにわかった。
どういう経緯でここまで出てきてくれたかは知らないが、とりあえず、なんだか嬉しい。
「藍くん」
手を振って近づいていく。
「遅い」
藍くんはそう言って軽く頭を叩いた。
確かに、考えがまとまったらすぐ帰るつもりだったのに、山花から電話がかかってくるとは思わなかったものね。
「ごめんなさい、けど、答えは出たわ」
「なに?」
「私藍くんが好き」
「……で?」
「別に、それだけ。好きなので側にいたい、あなたを眺めていたい。理由はそれじゃだめ?
藍くんがこの暮らしに耐えられなくなっていたなら、私は出ていくけど、」
「俺、昔とは違うけど、結局好きなのか?」
「そうね、姿形は昔よりもっと好きになったと思う。
この場合中身は無視してるけれど、
大丈夫よ。中身で好きになれる部分ならこれから探していくから」
「なぜ上から目線」
「いいの、この恋が実るか実らないかは、ただ、これからもここにいていいかどうか、」
藍くんは、私の答えに少し戸惑ったようで、数秒沈黙したあと、ため息をついた。
「…出てけって言ったの、別に、もういいっつーか…。あれは、桐ちゃんの言い方が気にくわなかっただけだからさ。
あと、俺も桐ちゃんのこと好きだよ」
「そう、わかってくれたの。よかった」
「嫌いじゃない、大好きだから、俺の家に居て」
「……さっきから、よくわからないこと言ってるわよ。疲れているんじゃない?」
「だから、月島の家に行くのは禁止。いいな」
「……?……、はい?」
「帰るぞ」
私に背中を向けさっさと歩き出す藍くんを、追いかけた。
特に一言も会話をせずに家まで帰っていった。
私の気持ちは、藍くんにちゃんとわかってもらえたらしい。
そこは、よかった。
よかったんだけど、
また、悩みごとが増えた。