藍くん私に触れないで‼
入学してから、1ヶ月。
恋をしてから、1ヶ月。
私は、藍先輩を見るだけの生活だった。
「百合ちゃ~ん!!」
「なーに?また藍先輩?」
「今日も見かけたんだ~」
「へー、よかったね」
「うん!」
藍先輩を見かけるだけでその日はいい日に変わる。
とても単純な私です。
「それよりね、菫」
「ん?なあに?」
「藍先輩に彼女いるって噂よ」
「…へ?」
嬉しくて高鳴った心地よい鼓動が、グサッと何かに刺されたみたいに傷んだ。
「ほ、ほんと?」
「うーん、噂だからどうか分からないけれど」
「誰?」
「確か、藍先輩と同じクラスの…なんとか桐っていう…頭いい先輩」
「…へぇ…」
そんな…
今まで、誰かとキスしたり、保健室の噂とかたくさん聞いても、藍先輩は誰とも付き合わないって聞いたから、少しは期待していたのに…
こんな形で、私の恋は終わっちゃうのかな。
「あー、でもさ、噂だしさ!そうだ!なんなら、その彼女って噂の人に聞きにいこ!
そうしたら諦めもつくんじゃない?」
「う、うん…そうだね…」
「こらー!暗い顔だめ!もっと強い気持ちでアピールしなきゃ!」
「う、うん!」
百合ちゃんにそう言われて無理矢理笑う。
けど、やっぱりちゃんと笑えない。
もやもやして涙が出そう。
「よし、思い立ったが今!菫!聞きにいこう!」
「ええ?今から?」
「昼休みだし、ちょうどいいじゃない!」
半ば無理矢理百合ちゃんに連れられて、私と百合ちゃんは藍先輩の教室に行った。
こっそりドアから教室を覗く。
藍先輩は居ないみたい。
「えーと、桐先輩の席は~、あそこね」
ドアに張られた席順の紙を見ながら百合ちゃんが指差した。
「…居ない?」
「みたいだね」
がっくり肩を下げた。
ドキドキしながら来たのに、なんだか残念。
「そこ通して」
「あ、すみま…っ」
さっと、ドアから離れると、その人はまったく表情を変えずに教室に入ろうとした。
そのとき、百合ちゃんがその人の手をつかんだ。
「あの、桐先輩ですか?」
「ぇ…あ、ほんとだ…」
その人のネームプレートを見ると、確かに、矢野桐という文字があった。
すると、桐先輩は百合ちゃんの手をバシッと突き放した。