藍くん私に触れないで‼
そのあと、新しい先生がホームルームをして、今日は終了だ。
早々と帰ろうと、鞄を準備する。
しかし、ピタリと手が止まる。
携帯が見当たらない。
スカートのポケットに入れていたはずだが、何度確認しても見当たらない。
もしかして、保健室に置いてきたのかしら。
ふと、周りを見てみると、もう数人しか教室に残っていないことに気づく。
その中に、藍くんは、居ない。
やっぱり、私は、藍くんにまったく気にされていないのか…
いや、いや。あれは藍くんではない。決して。
だから、私が落ち込む必要はまったくないはずだ。
さて、保健室に行こう。
廊下には、まだ、人がちらほらいる。
そんな人たちを横目に私は、保健室に一直線に向かった。
携帯を手に入れたら即帰宅。
机の上の写真の中の藍くんにすぐにでも会いたいから。
保健室につき、そのドアに手をかける。
しかし、ドアは開くことなくガタンとだけ音をたてた。
鍵がしまっている。
今気づいたが、保健室のドアには、先生の不在を示すボードが掛けられている。
しかしここで慌てる私ではない。
私は、保健の先生と仲がいいだけでなく、
保健委員会に入っている。
ちなみに、委員として働いたことはない。
ただ、保健室の鍵欲しさに入った。
というわけで、私はいつも持ち歩いている保健の鍵でいつでもこのドアを開けることができるので慌てる必要はないのだ。
鍵を取りだし、今度こそドアを開く。
誰も居ないので軽くドヤ顔。
さて、ドアも開いたことだし、携帯を探そう。
一歩、足を踏み出したとき、
私は気づいた。
それは、耳をひそめなければ聞こえないような小さな小さな掠れるような声。
というよりも、息に一瞬だけ声が混じったようなものだった。
これはどこから聞こえるのかしら。
保健室の奥へ、一歩一歩足を進める。
聞こえる、聞こえる。
吐息が聞こえる。
それは、保健室のベッドの上で。
私の神経がぶちっと切れた気がした。
それからは、なんの躊躇もなくそのカーテンを開いた。
「私の保健室を、汚さないでくれるかしら‼‼‼‼」
大きな大きな声を出して叫んでいた。
そうして、視界に入ると現実は思ったよりもずっとずっと、最低なもので。
半裸の女の子の首もとに唇をあてがうその姿は、
藍くんで違いなかった。
ちがう、藍くんであって、藍くんではない。
「…んだよ、邪魔…すんなって…」
「また、あなたなのね…邪魔するよ。とりあえず保健室から出ていって下さい‼‼」