冷酷皇帝と偽りの花嫁~政略からはじまる恋の行方~
アシュレはめずらしく自室にいた。
夜、東の宮にいるとリューリの部屋が気になって仕方がない。
だから、執務室にいることが多かったが、今晩はひどく
疲れていて、仕事がはかどらなかった。
自室に籠り、普段はあまり飲まない酒を目の前におき、
アシュレは物思いに沈んでいる。
自分の妃なのだから、自分の好きな時に部屋をたずねていって
いいはずだった。
だが、今リューリに向き合ってしまえば、自分が何を言いだすか
わからない。
ダニエル=ウインギュスターが、頻繁にリューリのもとをおとずれて
いるのは知っている。
リューリの機嫌が最近いいのは、ダニエルのせいだ。
リューリは一言もいわないが、リューリがダニエルを気に入って
いるのは、見てわかる。
自分を拒絶し、リューリはダニエルを選んだ。
その事実は、アシュレを落ち込ませた。
今まですべてのことを手に入れてきたアシュレには
自分が手に入れられないものを、横からかっさらわれた事など
なかった。
だから、どうしていいかわからない。
そもそもリューリのことに関しては、最初からどうしていいか
わからなかった。
だから、情をいれるなと自分を戒めてきたのに、
この様はなんだ。
アシュレは目を瞑り、椅子に深く腰掛けた。
目の前にある酒のはいったグラスをぐっとあおる。
と、そこへ衛兵が扉の外から声をかけた。
「なんだ」
「はっ、実は普段リューリ様の護衛についている者が、
報告があってリューリ様をたずねてきたのですが、お姿が
みえないようなのです。」
「なにっ?」